FreeCADのBIMワークベンチと市販BIMソフトRevitのモデリング操作の違い

 BIMソフトの練習としてFreeCADを使いたい人や、FreeCADと他のBIMソフトとの間で移行を考えている人のために、FreeCADと市販BIMソフトRevitのモデリング操作の違いについて考えます。

 FreeCADは多機能な3DCADですが、サブスクで毎年40万円から50万円必要な市販BIMソフトに比べると、無料のFreeCADの機能の一部であるBIMワークベンチではできない事があるのは当然のことです。したがって、その部分は概要を説明するだけにして主要なモデリングツールの操作方法の違いについて整理します。

 ここからは、実際に操作した経験を基にした操作方法の違いです。この記事は、FreeCADとRevitの考え方の違いを知るためのものなので、これを読んでRevitの具体的な操作方法がわかるというものではありません。
 Revitに関しては、著作権の問題があるので図表を転載することはできません。Revitについて詳しく知りたい人は、トレーニングマニュアルが公開されているので目を通すことをお勧めします。


■根本的な違い
RevitとFreeCADの大きな違いは、ファミリ(部品)の有無です。

【Revit】
のデータはカテゴリ>ファミリ>タイプという階層で構成されています。
カテゴリは、BIMオブジェクトを分類する壁、柱、梁、階段のような部材別のグループです。寸法や文字注記なども注釈というカテゴリに分類されます。
BIMのデータはカテゴリに分類されて、その分類に応じた属性を定義していることが、普通の3DCADのデータとは異なります。

 Revitのマニュアルでは、柱カテゴリの下層に円柱ファミリや角柱ファミリがあり、さらに円柱ファミリの下層に円柱450mm、円柱600mmのようなタイプがあり、階層を構成していると説明されています。

 FreeCADのBIMオブジェクトにもifcTypeプロパティがあって、同じように壁、柱、梁、階段のようなBIM要素を区別しています。

ファミリは、形状や寸法、マテリアルなど共通の属性をまとめて定義するクラスオブジェクトです。同じ使用法をするオブジェクトをグループ化します。個々の属性のパラメーターは下層のタイプで設定します。

タイプは、ファミリのパラメーターの具体的な数値や属性を設定することで、様々な部材を定義します。したがって、直径450の円柱と直径600の円柱は、直径の数値が違うだけでも別のタイプとして登録されます。
 タイプのパラメーターの設定によって、作成されるモデルの形状、表示、自動編集方法が違ってくるのでタイプの設定は重要です。

 Revitの要素はすべてファミリと下層のタイプとして登録されており、Revitではファミリの中のタイプを選択して配置することで3Dモデルを作成するのが基本的なモデリングのフローです。
 例えば、円柱ツールを選んで直径の数値を450に設定して作図するのではなく、直径450の円柱タイプを選んで配置するということです。


【FreeCAD】にはファミリはありませんが、モデルを作成するときに、サイズを設定して形状を決めてから配置すると、オブジェクトができます。これにより、Revitと同じように部品を配置するような方法でモデリングすることができます。

 FreeCADは3DCADなので、2Dのベースオブジェクト(線や面)を先に作図し、ツールで変換して壁や柱のようなBIMオブジェクトを直接作成することもできます。これはRevitにはないモデリング方法です。

 FreeCADで作成したBIMオブジェクトはカテゴリ区分の他に、位置と形状、ビュー情報を持っています。さらに、別に定義するmaterialオブジェクトにリンクすることで、物理属性、設備情報、コスト情報などを追加できるので、BIMオブジェクトに必要な属性を定義することができます。


もう一つの違いは、部材の接続部の処理と自動変形です。

【Revit】のように部品を選択して配置するだけでモデルができる方法は、建物のモデリングツールとしては非常に簡単です。さらに、部材の接続は重複部分を自動的に切り抜き、連結処理するので図面作成も容易です。壁、柱梁、床のような別のカテゴリの部材でも種別を判断して自動的に接続処理します。

また、壁芯や通り芯、レベルを作成すると、自動的に他の軸線やレベルとの距離が記入されます。この寸法を変更すると軸線やレベルの位置が移動し、さらに連動して線上に配置した部品の位置や長さが変形します。部品の基準点が軸線やレベルに拘束されているのでモデルを修正したり、変形して別のモデルを作成することが容易にできるようになっています。


【FreeCAD】は、部品を配置してモデリングできることは、Revitと同じですが、壁と壁の結合以外は接続部の自動処理はできないので、図面化するにはそれなりに修正を加えるか、作成するときに重複部分を作らないようにする必要があります。BIMモデルを図面と連携するためには、モデルで正しく接続した形状を作成するする必要があるということです。

軸線やレベル、部材の位置は、自動的に相互の距離の寸法が作成されることはありません。位置や長さを変更するには、プロパティを変更します。

部材は、軸線やレベルにスナップして配置しても、連動して自動変形することはありません。Sketcherでオブジェクトを拘束するか、手動で部材のプロパティを別の部材とリンクすれば、自動変形させることはできますが手間がかかります。

このように、FreeCADのモデルは、モデリング方法とできるモデルの形状は、Revitと似ていますが、図面化したり数量を作成しようとするときや、モデルを大きく変更したいときには修正箇所が多いので、Revitよりも複雑な操作が必要になります。


FreeCADは自由な形状のBIMオブジェクトを作成できます。

 RevitでもFreeCADでも、自由な形状を作成したり、登録されていない部材を使用するには、3Dモデリングツールで新しい形状を作成することが必要です。

【Revit】は新しいファミリを作るか、コンポーネント(アダプティブ/マス)というものを作成します。3Dモデリングツールを使用するので、その部分に関しては3DCADと同じ操作が必要ですが、3Dツールが少ないので普通の3DCADより複雑です。
 ファミリを自作する場合には、FreeCADのSketcherのような拘束の考え方を理解する必要があり、BIMモデリングとは全く別の操作が必要です。


【FreeCAD】は3DCADなので、そのまま3Dモデリングツールが使えます。作成したオブジェクトをBIMカテゴリーに分類し、その他のBIM属性も定義できるのは普通の3DCADにはない機能です。

 3DCADツールを使った形状の作成と、それをBIMオブジェクトに変換することについては、FreeCADの方が自由なモデリングが可能です。


■画面構成
【Revit】は、オフィスソフトのように上部にツールを並べたリボンという部分があります。
 その上部に種類分けのタブ(ファイル、建築、構造、鉄骨...)があって、ツール群を使い分けることができます。

 ツールをクリックすると、リボンの下にオプションバーが表示されて、モデリング操作の条件や数値入力のようなオプションを設定することができます。

左側には上からタイプセレクター、プロパティパレット、プロジェクトブラウザがあります。
タイプセレクターはモデリングのときに部品(ファミリとタイプ)を選択するウインドウです。
 該当するタイプがない場合は、比較的近いものを選択して編集ウインドウを出してコピーし、寸法や構成を変更して新しいタイプとして登録します。

プロパティパレットは、部品(ファミリ)を配置する位置情報その他の属性を表示します。項目を選択して変更することができます。
 FreeCADのデータタブに相当します。

プロジェクトブラウザは、作成中のビュー(平面図、断面図のような図面ビューも含む)、シート、ファミリなどを階層表示します。
 FreeCADでは、モデルタブに相当します。FreeCADでは、作成したオブジェクト管理が中心ですが、Revitではビュー管理が中心になります。この部分を使ってビューの切替えができます。

 Revitの場合は、図面ビューとモデルの3Dビューが同時に作成されるので、プロジェクトブラウザで平面を選択し、平面ビューに部品を配置することでモデリングすることができます。3Dでモデリングしているというよりも、平面図を作成するイメージで、3Dモデルを作成できます。

下部にスケールとビューコントロールがあります。
スケールは、作成する図面ビューの図面表現を決定します。設定したスケールで文字や寸法のサイズが調整されます。図面表現を調整するだけなので、モデリングするときのモデルの寸法は実寸で入力します。

ビューコントロールは、作業ウインドウでのビューの見え方を設定します。図面ビューは、簡略、標準、詳細を選択できます。3Dビューはワイヤーフレームやシェーディングを選択することもできます。


【FreeCAD】は、上部にツールバーがあります。
・ツールバーの中のワークベンチセレクターで、ワークベンチを切替えてツールを使います。

 左上にモデル/タスクタブ、左下にビュー/データタブがあります。
・モデルタブは、モデルのオブジェクトの階層構造を表示します。
・タスクタブは、モデリング操作で数値入力等のオプションを設定します。
・ビュータブは、モデルの見え方に関するパラメーターを設定できます。
・データタブは、選択したオブジェクトの位置、形状等のパラメーターを設定できます。


■通り芯ツール
【Revit】は、建築タブの中の「通り芯」をクリックして、通り芯を作成します。

 タイプセレクターで、通り符号のサイズを選択します。
 縦または横の線を、始点終点クリックで作図すると、自動的に通り符号が付きます。
 オプションバーでスパン距離をオフセット値に入力して、元の通り芯をクリックして通り芯を複写します。または、修正タブのコピーツールで、通り芯を必要な数だけ複製することもできます。

 通り芯はドラッグして移動することができます。通り芯の長さも端点をドラッグして変更することができます。
 通り芯には自動的に寸法が入るので、この数値を変更して移動することもできます。


【FreeCAD】は、軸線作成ツールをクリックして、軸線セットを作成し、間隔、長さ、位置、方向、通り符号をプロパティで設定します。
 または、BIMのセットアップツールで、縦横の軸線を一括生成し、プロパティで調整します。

 軸線(通り芯)をひとつずつ作図したり、ドラッグで線の位置や長さを変更することはできません。すべてのパラメーターはプロパティで数値を変更して変形します。
 

■壁ツール
【Revit】は、建築タブの「壁」をクリックして表示される区分(壁_意匠、壁_構造など)を選択すると、タイプセレクターで壁の種類を選択できます。

 意匠壁は、壁と仕上材がセットになった複合壁が選択できます。
 壁厚と構成はタイプにより決まります。プロパティパレットで、配置基準、基準レベルとオフセット、上部レベルとオフセットなどの配置条件を決めます。
 上方向、下方向と数値で決めることもできます。

 壁配置方法で、直線、曲線、多角形などの2D作図ツールを選択し、2D図形を作図すると自動的に壁オブジェクトに変換されます。

 壁の高さは、プロパティで設定したレベルとオフセットに拘束されています。壁厚や構成を変更するためには、タイプの内訳を編集して別のタイプとして登録するか、登録されている別のタイプを選択します。


【FreeCAD】は、壁ツールをクリックして、オプションで、断面寸法と配置基準などの作成条件を設定します。

 壁は、始点終点をクリックすると、設定した条件で壁を作成します。
 2D図形として作図した線や面をを選択して、壁ツールをクリックすると、設定した条件で壁オブジェクトに変換することもできます。

 壁オブジェクトは、プロパティで、壁厚、高さ、配置条件その他の属性を変更することができます。

 マルチマテリアルを使えば複層の壁を一度に作成することもできますが、接続部の処理などに制限があるので、使う場所が限定されます。ひとつのベースラインに複数の壁を配置する多層壁という機能もあります。


■柱ツール
【Revit】は、建築タブの「柱」をクリックして、表示される区分(柱_意匠、柱_構造)を選択すると、タイプセレクターで柱の種類を選択できます。

 すでにあるタイプとほぼ同じで、一部の要素だけ(例えば断面サイズ)が異なるものは、条件の近いタイプを選択し、コピーして該当部分を変更し別名で登録することで新しいタイプを作ることができます。
 これは、柱だけでなく、他のファミリ要素についても同じです。

 意匠柱は、柱の種類と構成が選択できます。
 断面形状とサイズはタイプで決まっているので、プロパティパレットで、基準レベルとオフセット、上部レベルとオフセットなどの配置条件を決めます。

 柱配置方法は、単独柱と通り芯交点を選択できます。通り芯交点は交差選択で選んだ通り芯の交点に柱を配置します。

 柱の高さは、プロパティで設定したレベルとオフセットに拘束されています。柱の種類やサイズ変更するためには、別のタイプに変更します。


【FreeCAD】は、柱ツールをクリックして、オプションで、柱断面を設定します。
 プリセットという登録された断面を選択することもできます。

 柱は指定したポイントに中心合わせで配置されます。
 通り芯オブジェクトをリンクして、通り芯の交点に一括配置することもできます。
 作業平面に柱の断面を作図して、柱ツールで柱オブジェクトに変換することもできます。

 柱オブジェクトは、プロパティで、断面寸法、高さ、位置その他の属性を変更することができます。


■梁ツール
【Revit】の梁は、構造タブの「梁」をクリックすると、タイプセレクターで梁の種類を選択できます。(建築タブには梁がありません。)

 断面形状とサイズはタイプで決まるので、プロパティパレットで、配置レベルと左右と上下のオフセットなどの配置条件を決めます。

 壁配置方法は、2D図形を作図する方法と、通り芯上に配置する方法を選択できます。大梁は通り芯上に配置し、小梁は大梁間に直線を作図すれば簡単に配置できます。

 壁や梁を通り芯以外の場所に配置すると、自動的に通り芯からの距離が作成されます。この数値を変更して壁や梁の位置を調整することができます。


【FreeCAD】は、梁ツールをクリックして、オプションで、梁断面を設定します。
 プリセットという登録された断面を選択することもできます。

 梁は始点終点を指定して配置します。指定点が梁断面の中心になります。
 梁の断面を作図して、梁ツールで梁オブジェクトに変換することもできます。

 梁オブジェクトは、プロパティで、断面寸法、長さ、位置その他の属性を変更することができます。


■床ツール
【Revit】は、建築タブの「床」をクリックして適当な区分を選択し、タイプセレクターで床構成の種類を選択します。
 プロパティパレットで、基準レベルとオフセットを設定します。

 修正/床の境界を作成タブに移動して、作図ツールで床の範囲を作図します。
 作図後、「編集モードを終了」をクリックして戻ると、タイプで選択した構成で床ができます。


【FreeCAD】は、床ツールをクリックする前に、床範囲を作図します。
 作図した床範囲を選択して、床ツールをクリックすると厚さのある床オブジェクトに変換されます。
 後は、プロパティで床の厚さを設定し、必要があればレベルを調整します。


■屋根ツール
【Revit】の屋根ツールは、建築タブの「屋根」をクリックして、適当な作成方法を選択し、タイプセレクターで屋根材の種類を選択します。
 基準レベルとオフセットも設定します。

 修正/床の境界を作成タブに移動して、作図ツールで屋根の範囲を作図します。
 勾配を設定ツールで、勾配のある辺を指定し、勾配を設定します。
 作図後、「編集モードを終了」をクリックして戻ると、タイプで選択した屋根ができます。


【FreeCAD】は、屋根ツールをクリックする前に、屋根範囲を作図します。
 作図した屋根範囲を選択して、屋根ツールをクリックすると屋根オブジェクトに変換されます。
 屋根のオプションを開き、各辺の勾配角度、奥行方向、軒先長さなどを設定して形を調整します。


■建具ツール
【Revit】は、建築タブのドアまたは窓をクリックして、タイプセレクターで建具の種類を選択します。
 建具の種類やサイズはタイプで決まっているので、プロパティパレットで下枠高さを設定し、作業ウインドウで壁にカーソルを近づけると、壁を切抜いて適当な位置に建具を配置します。建具の左右や開き勝手を変更することもできます。

 寸法違いの建具は、タイプのパラメーターを編集して別のタイプとして登録して使うことができますが、登録されていない型式のものは新しくファミリを作成する必要があります。


【FreeCAD】は、ドアまたは窓ツールをクリックし、プリセットで種類を選択しオプションでサイズやオフセットを設定します。
 カーソルを壁に近づけると、壁を切抜いて建具を配置します。
 建具のオプションで、方向や開き勝手を変更することもできます。

 建具ツールは2Dで作図した建具姿図を建具に変換してBIMオブジェクトにすることができます。


■階段ツール
【Revit】は、建築タブの階段ツールをクリックしてタイプセレクターで階段の種類を選択します。プロパティパレットで踏面蹴上寸法や階段幅、オフセットを設定できますが、作成後にドラッグして調整することもできます。
 設定後に階段位置のラインを作図すると、階段に変換されます。

 階段ツールは、段部と踊り場を順につなげて指定していくことで複雑な階段でも一括して作成することができます。
 作成できる階段の種類も多く、手摺を同時に作成することもできます。


【FreeCAD】の階段ツールも階段位置のラインを作図して選択し、階段ツールをクリックすると階段に変換します。ただし、階段ツールで作成できるのは段部だけです。プロパティで形式や寸法を変更して調整します。

 段部のラインを複数作図し、順に選択してまとめて階段に変換することで、複雑な階段も作成できますが、踊り場や手摺部分は後で作成する必要があります。


■この他にも、特別なBIMモデリングツールはいくつかありますが、操作方法はそれぞれ違うので比較することはできません。

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