はじめに FreeCADでBIMはできるのか(2022/8/8追記)


2022/8/8更新

 無料でBIMを使えるソフトを探してここまでたどり着いた人は、BIMに興味があり、多少はBIMについての情報も知っていて、試してみたいと思っているのではないでしょうか。

 FreeCADはオープンソースの3DCADで、その中にBIMワークベンチというBIMソフトと同等の機能を持つツール群があります。
 BIMといっても、その活用範囲は設計業務から、施工、メンテナンスまで含みます。FreeCADは開発途上のソフトであり、市販のBIMソフトと全く同じ機能や操作方法が使えるわけではありませんが、他のソフトにはないメリットもあります。

 BIMのデータは複雑なので、他のソフトの互換ソフトとしてFreeCADのBIMワークベンチを使うということはできません。それでも、FreeCADの特徴を知って使い始めることで、BIMや3DCADの考え方やモデリング方法を理解すれば、BIMを使いこなせるようになることにつながります。


 BIMの活用にはいくつかの段階があります。
1)最も初歩的な段階は、BIMモデリング方法で建築物のモデルを作成することです。
2)次は、モデルを基にして2D図面を作成し、変更に連動して変形できるようにすることで、整合性のあるデータを作成することです。
3)建築モデルを使って、設計の各段階でのチェックや、プレゼンに使うことができるようになります。
4)構造や設備設計との連携で系統間のデータの整合性を維持します。
5)積算や施工計画とつなげることで、工事費や工期の算定に利用できます。
以上が設計段階での活用です

6)さらに施工現場での施工図や、変更の修正などの活用も考えられます。
7)将来的には、建物完成後のメンテナンス管理まで含めてデータ化して一元管理することも目指しています。


1)の建築モデルはFreeCADで作成可能です。
 BIMモデリングで、建築オブジェクトを作成し、構造体別、建具、階段等で分類された属性データ含むデータを構築できます。
 どのBIMソフトでも、部品を配置してモデリングする考え方は同じですが、ソフトが違えば、当然、設定や操作方法は違ってきます。

IFCというBIM共通フォーマットで読み書きすることができるので、他のソフトとの間で形状や基本的な属性の移動はできますが、詳細な属性データは各ソフトごとにデータ構造が違うので、すべての情報を他のBIMソフトに完全に移動することができるわけではありません。

2)のモデルから2D図面を作成することと連携もFreeCADで可能です。
 市販BIMアプリのRevitでは、モデル作成時から図面と3Dモデルをリンクして見ることができるので、図面とモデルのどちらからでもモデルを作ることができます。
 一方、FreeCADでは、モデルから水平垂直断面を切出し、レイアウトすることで図面を作成することができます。図面を一度レイアウトしてしまえば、その後のモデルの変更は自動的に図面に反映されます。

 モデルの図面化に関しては、市販のBIMソフトでも実施設計の詳細な図面には対応していないので、図面を作成するときに2DCADから部分詳細図等を貼り込んでレイアウトしています。つまり、今の段階では実施設計まですべての作業をBIMソフトで完結するのは無理があります。

3)のモデルを使ってのチェックやプレゼンは、すぐに思いつくのは法規チェックや日影、パースの作成です。
 FreeCADにはシミュレーション機能はありません。アドオンやマクロがあるかもしれませんが、海外のソフトなので、日本の法規に適合するとも思いません。
 パースについては、FreeCAD内のRenderワークベンチである程度のレンダリングは可能ですが、詳細な設定をするには、外部ソフトにエクスポートする必要があります。

 FreeCADで出力できるフォーマットの種類は多いので、他にも読み込みできるソフトがあれば、それなりの利用はできるかもしれませんが、外部ソフトに移した段階でFreeCADとのリンクは切れるので、変更があればやり直すことになります。

4)以降については、市販のBIMソフトでも単独でできることは限られています。
 市販のBIMソフトであれば連携できるソフトを増やしたり、連携のためのツールを追加することもありますが、FreeCADにはその機能はありません。
 ただ、FreeCADはプログラムが公開されているので、プログラムできる人は自分でツールを開発することはできます。

 構造と設備に関しては、建築では専用ソフトを使うことが多いのに対し、FreeCADには、構造や設備専用のツール群はありません。FreeCADだけで構造や設備のモデルを作成するのは限界がありますが、基本設計の図面程度なら可能かもしれません。

 積算に関しては、FreeCADでも建築オブジェクトを作成すると、属性の中に面積や長さが自動計算されてデータ化されるので、これを集計すれば概略の数量を作成することはできます。集計するための表計算機能があるだけで、プログラム化されているわけではないので、どこかボタンをクリックすれば概算数量が自動的にできるということではありません。
 実施設計レベルの詳細な数量を作成するためには、やはり外部ソフトとの連携が必要です。

 施工計画や施工現場、メンテナンスに関しても、データをどのように使えるかの問題ですが、今の段階でFreeCADにそこまでの連携を求めても無理なことです。

 
 市販のBIMアプリケーションについて知っているわけではないので断言はできませんが、少なくとも市販BIMアプリのRevitを見る限り、BIMソフトは単独ですべての機能を実装するものではなく、外部ソフトと連携することによりBIMのシステムを構築しているように見えます。

 実は、この点がFreeCADの一番の問題かもしれません。FreeCADは海外の開発者が提供しているソフトなので、日本国内のCAD関連ソフトとの連携は期待できないし、営利企業が販売しているソフトでもないので、そういう開発が行われる可能性も低いと思います。

 それならFreeCADで作ったものを他のBIMソフトにエクスポートして使えるかというと、互換性は確保できないので、FreeCAD関連のソフトがない現状では、実用的か悩むところです。
 2DCADのように、DXFファイルに変換して他のCADソフトに持ち込むというような使い方は、BIMのデータは複雑なので不可能です。FreeCADだけでできることを考えるべきです。
 BIMソフトとしての基本的な機能は持っているので、使いこなすことができれば、大規模な建物でも作成は可能ですが、最初はBIMや3DCADのモデリングツールとしての利用や、個人のBIM練習から始めるのが有効です。

 FreeCADが他のBIMソフトに比べて優れているのは、造形とデータの自由度です。FreeCADは汎用3DCADなので、自由な形状を作成することができます。さらに、その自由な形状を建築オブジェクトに変換することができます。床や壁の形状に関する条件がないので、どんな自由な形状でも床や壁のような構造体オブジェクトにすることができます。他のソフトで作成したモデルを読み込んで、建築オブジェクトにすることもできるデータの自由度の高さがFreeCADの大きなメリットです。



 これ以降は、このブログの初期に、FreeCADのBIMワークベンチの可能性についてまとめた元の記事です。同じことの繰り返しになる部分も多いですが、掲載しておきます。興味のある人は読み進めてください。


 FreeCADは、完全にソリッドでパラメトリックなモデルを作成することができる3DCADです。FreeCADのツール群であるBIMワークベンチは、商用BIMアプリケーションと同等の機能を提供しています。
 BIMワークベンチの優れている点は、建築オブジェクトは常にソリッドで、ブーリアン演算が保証されることと、建築物の形状に制限がないことです。
 3DCADであるFreeCADのすべてのツールや、外部のアプリケーションで作成した自由で複雑な形状でも建築オブジェクトに変換できます。
 ただ、開発途上のため、他のBIMアプリケーションとまったく同じ操作や完成度を求めてもできない部分はあります。

 データの互換性についてはBIMのデータは複雑で基本的に互換性はなく、どのソフトを使ってもデータを他のソフトで読み込むことはできません。IFCというBIMの中間ファイル形式もありますが、全ての情報を正しく変換できるものではないようです。


■はじめに
 個人でBIMを練習できないかと考えていた時に、FreeCADというオープンソースの3DCADにBIMワークベンチというものがあることを知った。市販されているBIMソフトはあまりにも高額で、個人が簡単に手を出せるようなものではないが、体験版の短い期間で理解できるほど簡単なソフトでもない。

 FreeCADでBIM的なモデリングの練習ができれば、高性能なBIMソフトを使うためのヒントになるし、モデリングだけでも試してみたいと思ってFreeCADを始めることにした。

 少し使ってみた感覚としてはFreeCADは他の3DCADと同じように機械系に強いCADという印象である。建築用にArchワークベンチ、BIMワークベンチがあるが、建築系ツールの情報が少ないので慣れるまでは苦しいかもしれない。

 FreeCADは形状を作成した後も、プロパティやパラメーターを変更することで形状を自由に変更できるパラメトリックモデラーなので、モデリングに関してこれまでの3DCADとは異なる使い方が準備されている。この点も使いづらいと感じるかもしれないが、従来と同様の方法(DraftとPartワークベンチ)でも操作できるので、そういう使い方から始めるのがよいかもしれない。


■BIMモデリング
 BIMのモデリングというのは、これまでの3Dモデリングソフトのように、2次元の平面図から3D編集機能を使って立ち上げて立体化するのではなく、最初から3Dモデルを作成するという方法である。
 3次元の情報を持つ柱、壁、窓、床、階段のような要素(パラメトリックな部品)を各階平面に配置していくことで、ソフトが自動編集して建築モデルができあがる。モデルを部分的に変更すれば、関連する部分は自動的に修正される。
 図面との関係でいえば、これまでとは逆に3次元モデルを基にして、自動的に2次元図面を作成するので、図面間の整合性を常に保つことができることもメリットといえる。

 本来のBIMはコンピューター上に作成した3次元の建築物のモデルに、構造設計や設備設計の情報、コストや仕上げのような付随する属性データを追加して、建築物のデータベースを一括管理するシステムを構築している。
 属性データの一括管理はハードルが高いとしても、建築モデリングソフトとして見ただけでも、BIMには大きな可能性がある。


■FreeCADでどこまで可能か
 高額な(当然、高性能ではあるのだが)BIMソフトは、モデリングソフトとして見た時にも優れた自動編集機能が備わっている。しかし、FreeCADはあくまでも3DCADなので、BIMソフトの機能を同じ操作方法で体験できるものではない。専用のBIMソフトのように操作がわかりやすく構成されているわけではないので、操作手順や設定などで自分で方法を考えなければいけない場合もあり、市販のソフトより難しい部分はある。

BIMソフトの主要な機能は、FreeCADでも対応する機能が実装されている。

1. 部品配置と自動成形による建築モデルの作成。
 BIMモデリングと、階層的なデータ構造を提供している。

2. モデルと図面の連携
 モデルから図面を自動作成することと、モデル変更に伴う図面の自動修正が可能である。

3. 属性データの設定と共有
 FreeCADのBIMワークベンチで作成した建築要素(オブジェクト)は、形状だけでなく属性のプロパティがあり、マテリアルや材料属性、数量なども設定できる。この情報をエクスポートすることで他のソフトと共有することができる。
 属性の設定と活用はそれなりの知識が必要となるので、専門外の人には最も難しい部分となる。全ての情報を設定しなくても、マテリアルだけ登録してパースを作るというような使い方はできる。

4. モデルから数値情報(面積や数量など)を収集
 FreeCADはスプレッドシートの機能があり、モデルのデータ内の情報を収集し活用することができる。スプレッドシートで作成した数値をモデルにリンクすることもできる。
 面積や数量の集計は、専用の集計ツールがあって比較的簡単にプロパティの数値を集計することができる。

上記のうち3と4については、専門の知識やプログラミングの要素が必要であり、これらの機能を使いこなすには時間がかかるかもしれない。しかし、モデル作成や図面との連携に関してはそれほど難しくはないし、実際の設計において最も効果のある部分なので、BIMソフトの有効性を実感することはできるはずである。

RevitなどのBIMソフトとの違いについては、「08.0BIM移行ガイドを読む」にまとめたので興味のある人はそちらを参考にしてもらいたい。


■FreeCADでできるBIM的なモデリング
・レベル別に部品を配置して、3Dモデルを直接入力する。作成したモデルはパラメーターで自由に変更できる。
・壁に建具を配置すると、壁を自動で切り抜きする。
・モデルデータをツリー構造で管理できる。(グループ別の移動複写、表示制御が可能)
・データのツリー構造とグループ化を使えば、同種の部材の一括変更ができる。
(ただし、関連部材の自動編集はできない部分もあるので、自力で編集が必要)

・モデルから図面を作成しモデルとリンクするというBIMの必須の機能も備えている。

 BIMソフトではデータ管理をソフト側で行ってくれるので、データの階層構造を意識的に作成する必要はないが、FreeCADでは、データの階層構造を自分で管理しないと、データ量が増えたときに、部品の選択や表示制御が難しくなる。
 その点がBIMソフトと違う部分であるが、データが見えることでパラメーターを使った変更が容易になるという利点にもなっている。


■FreeCADで困っているところ
 FreeCADを使い始めた頃は、BIMモデリングの接合部処理や高さ方向の自動変形ができないと考えていたが、詳しく調べていくと、ほとんどがモデリング方法や設定で対応できることがわかってきた。ただ、BIMワークベンチについては情報が少ないことが今の一番の問題である。

 FreeCAD BIM移行ガイドに「FreeCADは3Dモデリングプラットフォームである」とあるように、FreeCADは多機能な3DCADで、その中から必要な部分を抽出してワークベンチ(ツール群)を構成することで、専用ソフトと同等の機能を提供している。
 ワークベンチはモデリング中でも自由に移動して使うことができるが、必要なツールがどのワークベンチにあるのか、同じようなツールはどこが違うのか、ツールの種類が多いため、ひとつずつ確認することも難しい。

 FreeCADは多機能なソフトであるため、表面を見ただけでは機能を把握することができない。使っていると次々と新しい発見があり、どう使うのかわからないことも多い。ソフトで何かができないというよりも、ただ使いこなせていないだけかもしれない。



 FreeCADについてはネット上にいろいろな情報が出ているし、チュートリアルや技術ドキュメントもあるが、どれもツールの基本的な使い方に限られていて、その先の情報を見つけることができない。
 英語コミュニティの中を探せば詳しい情報があるかもしれないが、まだそこまではたどり着いていない。

 このブログはFreeCADでモデリングをしながら気付いたことの記録なのでまとまりがないし、正しい操作方法かどうかの確証もないが、同じようなところで行き詰っている人の参考になるかもしれないので、忘れてしまわないように書き残しておく。

 3DCADとは違うBIMのモデリングを練習したい人や、3Dモデルと図面の連携を知りたい人は、高額なBIMソフトを導入する前に、FreeCADのBIMワークベンチを試してみるのもひとつの方法である。
 パラメトリックな変形やデータのリンクについても、FreeCADはその仕組みがすべて見えているので、考え方を理解する助けになるかもしれない。
 標準外の部品を作成する場合には、FreeCADは3DCADであるのでBIMソフトより扱いが容易で、自由な形状を作ることには向いている。

 FreeCADでBIMソフトのすべての機能と操作性を実現できれば最高なのだが、今のところは、同様の操作方法というわけにはいかない部分もある。
FreeCADは多機能であるので、BIMソフトと同等のソフトとして使う方法を検討していきたい。

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