入門ガイド(2D-CAD)5:使えない図面について

CADで困っている人に(5

TITLE: 使えない図面
 どんな図面がいい図面かということは、はっきりさせることはできませんが、逆に、嫌われる図面というものはあります。設計の仕事をしていると、いろいろな図面データがやってきます。その中には、うまく整理された図面もありますが、「使えない図面」が多いのも事実です。使えないと言って、捨ててしまうわけにもいかないので、いろいろ手を加えたりして使いやすくなるように編集するのですが、そのためにムダな時間を使うわけです。


 もちろん、CADデータを変換したために、データが呼び出せないとか、文字化けしているので読めないとかいうのも、「使えない」には違いないのですが、これは互換性の問題なので、いくつかのCADで開いてみたり、コンバーターを使ってみたりして、できるだけ使える状態にするしか方法がありません。
 ここで言う使えない図面とは、画面で見て崩れている図面ではなくて、見たところは問題がないのに、使うのが難しい図面のことです。「使えない図面」にもいろいろ種類があります。
 ・レイヤーが整理されていない。
 ・線種や文字がバラバラ。
 ・図面の精度がない。
 ・図面の詳細が正しくない。
 ・互換性がない機能を使っている。
  使えない図面というのは、実は、作成している人にとっても効率の悪い図面ではないでしょうか。今では少なくなりましたが、このデータで図面を作るのは大変だろうと考え込んでしまうような図面もあります。 


TITLE: レイヤーが整理されていない図面
 使えない図面といったときに、CADを使い慣れた人が最初に考えるのは、レイヤーがバラバラの図面でしょう。
 多いのは、いろいろなレイヤーに、いろいろな線色、線種のデータが混じって記入されている図面です。どういう理由があって、レイヤーを変えたのかわからないのですが、とにかくいろいろなレイヤーにいろいろな線が描いてあります。
 線色、線種だけでも統一してあれば、それで分類してレイヤーを整理できるのですが、同じようなものが違う線色で描いてあったりして、全く収拾がつかないこともあります。
 逆に、レイヤーを全く使わないで、すべてをひとつのレイヤーに描いてある図面もあります。しかも、線色、線種の使い分けが混乱していて、分類することができないものです。
 あるいは、すべて同じ色で描いてある図面もあります。このタイプの図面は、図面の訂正や、データの再利用が大変です。極端な場合は、線をひとつずつ選択しながら、編集するしか方法がなくなってしまいます。
 こういうレイヤーのことを考えていない図面は、レイヤーの使い方を知らないと同時に線色の使い分けを考えていないので、使えない図面になってしまいます。 
 ただ、最近は別の図面のデータをコピー&ペーストして作成している図面も多いので、レイヤーの整理に関してはあきらめているところもあります。


TITLE: 線種や文字、互換性の問題
 線種や文字はCADによって設定方法が違うので、データの変換や貼付けを繰り返していると、種類が増えてしまうことがあります。もちろん、ひとつのCADでも、設定方法がわからなくて、いろいろな種類を登録して使ってしまうこともあるでしょうが、やはり多いのは変換によるものではないでしょうか。
 線種が違ってしまうと、印刷したときのピッチなどが変わり、見苦しいこともありますが、線種の同じものをまとめて選択し、編集することができなくなるので、その点でも不便です。
 文字の種類が多いことも問題です。文字の幅や、間隔が違っていると、同じことを書いても必要なスペースが変わってくるので、印刷したときの印象が全く違ってしまいます。
 線や文字の種類は、あまり増やさないようにし、変換などで変わってしまったときは、早めに整理をして、新しく使う設定と合わせておけば、使いやすいくなります。
 いろいろな文字の種類を使い分けたいときは、レイヤー分けなどで、適度に分類できるように整理しておくのもひとつの方法です。

 CADのデータに互換性がないことは、よく知られていることですが、それ以上に問題になるのは、互換性のない機能です。CADはそれぞれ特徴があって、それぞれ他のCADより使いやすくなるように独自の機能を持っています。同じCADの間でデータのやりとりをするのであれば、何の問題もないし、むしろ積極的に使って、効率的な作図方法を追求した方がよいと思います。
 しかし、他のCADにデータを渡すことも考えて作図するときは、独自の機能には注意が必要です。
 図面の配置や部品化、縮尺関係、特別な作図ツールなどは、他のCADデータに変換するときに、データが崩れる可能性があります。 



TITLE: 精度がない、正しくない図面
 スナップの項目で書いたように、CADにとって正確さは命です。CADでも慣れてくると、適当にそれらしく描くこともできるようになりますが、それは製図ではありません。
 スナップ以外にも線がずれてしまう原因はあります。CADは、移動や複写が使えるので他の図面のデータをコピーしてきて、図面に貼り付けて使うことができます。また、よく使う図形は、部品やブロックという形で保存しておき、必要なときに呼び出して使えます。これは便利な機能ではあるのですが、よく考えもしないでどんどん貼り付けていっても、何となくそれらしい図面になります。
 こういう図形を使うときは、回りの図形をよく見て、正確な位置に貼り付け、取り合いの線をきちんと編集しないと、図形の位置がずれたり、余計な線が残ったりして、正確な寸法がとれなくなり、次の線を描くときに位置がずれる原因となるのです。
 もうひとつ寸法で注意しなければいけないことがあります。製図をしていると、全体の形状を訂正しなければいけないのに、時間がなくなって、寸法の数値だけを訂正してしまうことがあります。これはCADでは一番危険な方法です。
 CADは、寸法は数値が自動的に入るので、データが他の人に渡ったときに、数値を強制的に変更していることに気づかない可能性が大きいのです。つまり間違った図形のままになってしまう可能性があるので、寸法の数値だけを訂正するのは危険だということです。

 正しくない図面というのもあります。正しくないとは、図形が間違っているという意味ではありません。図形が間違っているのは問題外ですから、直してもらうしかないのですが、図形が正しくても省略の仕方がよくないために、使えない図面もあります。
 図面を描くときには、印刷するときの縮尺を考えて、適当に省略することは必要ですが、寸法関係は正しくなるように省略しないと意味がありません。逆に、その縮尺では必要のない細かいところまで描きすぎている図面も、使いにくい図面です。
 もうひとつの問題は、詳細のない図面です。詳細図についての知識のない人に図面を作ってもらうと、どこかのデータを貼り付けた図面を作ることがありますが、重ねるポイントがずれているので、細かいところを訂正しなければいけなくなることがあります。
 また、詳細がわからないので、見本で塗りつぶされていたところを、塗りつぶして印刷できるように、適当に線で塗りつぶしていることがあります。スナップで間違った点を取ってしまう可能性があるので、意味のない線は使わない方がいいのです。 



TITLE: 最後に
 基本的なツールと、最低限の設定、印刷の操作を覚えて、CADに慣れれば使えるようになるというのは、CADを使い慣れている人に聞けば、だいたいそう言います。とにかくCADを使いたいという人には、この方法でいいと思いますが、オペレーターを目指して資格を取ろうという人は、正しい図面を描くことが要求されますから、基本的な操作を覚えたら、製図規則などを勉強することが必要になります。
 基本的なツールを覚えると使えるといいますが、実はそこには問題があります。ツールの操作というのは、鉛筆の使い方のようなものです。しかし、鉛筆を使うことができても、製図はできません。作図のどの場面で、どのツールをどのように使うのかがわからないと図面が描けないからです。CADを覚えるというのは、CADの操作を覚えることと同時に、CADを使った作図方法を覚えることも必要です。うまく図面が描けないのは、CADのツールの操作がわからない以前に、どうやって図面を描いたらいいのか、わからないからではないのか考えてみてください。


 基本的なツールを覚えて、操作に慣れるのがいいからといって、複雑な多くのツールが必要ないという意味ではありません。CADを効率的に使うにはかなり多くのツールが必要です。機能が少ないので使いやすいということはありません。
 確かに、実際の作図でもそんなに多くのツールを、いつでも使うわけではありません。そこで、CADのツールは少なくてもいいという考え方がでてきます。極端なことを言えば、鉛筆と消しゴムとスケールのツールがあれば、手描き図面と同じようにして図面を作ることができるかもしれません。実際にもシンプルさを売りにしているCADもあります。しかし、仕事の道具としてCADを使うのなら、少しでも効率的なものがよいと考えるのが当然でしょう。
 今のCADが複雑になったのは、CADを使い慣れた人のいろいろな要望を取り入れて、何でもできるようなソフトに変わってきたからです。いくつかの操作を繰り返さなければできないような作業を、ひとつのツールで処理できるとしたら、誰でもそれを使いたいと考えるはずです。ほとんど使わないような機能でも、必要になったときに、その機能がなければ他のCADを使うしかないということもあるわけです。
 複雑な機能がついているのには、それなりの理由があってのことですから、ひとつひとつの操作方法までは覚える必要はないですが、それぞれのツールで何ができるのかという程度は確認しておいた方がいいのです。
 それぞれのCADに特有の高度な印刷設定や特別な機能は、CADを使い慣れた人にも難しいので、なかなか使いこなせません。初心者が最初から全部のツールや設定を理解しようとすれば、挫折するのも仕方のないことです。最初は最も基本的でよく使うところから始めるというのが一番適当な方法です。

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