入門ガイド(2D-CAD)1:CADの考え方 属性、線色、レイヤー

CADで困っている人に(1)

 CADを始めてみたけれど能率が上がらない、ツールの使い方がわからないという人は、CADというソフトの仕組みについて考えてみてはどうでしょうか。

 CADはただの道具です。難しい計算をするわけでもなければ、特殊な情報を処理するわけでもないので、特別な知識がなくても使えます。難しく考えずに、少しずつ覚えて使うことを繰り返していけば、そんなに苦労しなくても簡単に使えるようになります。

 CADが紙に直接描くことと根本的に違うのは、CADで作図すると編集可能なデータが残るということです。CADとはデータを構築するソフトという考え方ができないとCADを効率的に使うことはできません。
 CADにはデータを整理し、作図の能率を上げるための機能がそろっています。CADで図面を描くとき、データが編集しやすくなるように考えて作図を進めることが重要です。


TITLE: CADは製図を教えるソフトではない
 CADを覚えれば、製図や設計ができるようになるわけではありません。確かに、製図ができなければ、CADは使えませんが、CADと製図は別のものです。まして、設計はもっと別のものです。
 CADは製図をするための道具ですが、図面を見て、どの順序で描けばその図面ができるのかわからなければ図面は描けません。CADは図面を描く順序までは教えてくれません。製図の経験のない人は、CADと同時に製図についても勉強する必要があります。製図方法を勉強するといっても、最初は、図面はどういう順序で描くのかという程度のことを知っていれば十分なので、市販CADソフトの解説本などの作図練習で作業の流れを見てください。


TITLE: どこから始めるか 
 どんなソフトでもそうですが、CADも慣れれば使えます。しかし実際には、CADに慣れる前に挫折する人がいます。CADは機能が多く、設定も複雑です。そのため機能を理解しようとするだけで、行き詰まり、挫折してしまうのです。
 パレートの法則というものがあります。2:8の法則ともいい、「ものごとは重要な方から2割をおさえれば、8割の効果がある。」というものです。CADでも、この2割の部分を集中して覚えれば、かなり使えるようになります。それ以外のことは、必要になったときに、解説本を読めばいいので最初からすべての機能の説明を読む必要はありません。

 CADにとって、重要な2割の部分とは何でしょうか。
  1. CADに特有の考え方 
  2. 基本的な作図、編集機能 
  3. 選択の操作と図形の編集 
  4. 文字、寸法、印刷その他の基本的な設定
以上の4項目について理解してその操作に慣れれば、未熟でも日常業務に支障のない程度には使えるようになります。 


TITLE: CADに特有の考え方 
 作図練習の前にCADに特有の考え方ということで、以下の項目でまとめてみます。
  1. データにはプロパティ(属性)がある
  2. 線色とは何か
  3. レイヤーは紙か
  4. スナップとでたらめな寸法
  5. 縮尺の問題
  6. 補助線とか仮点とか
 FreeCADのDraftワークベンチは、製図専用の2DCADではないので、線種線色、レイヤーを自由に切り替えるアイコンがありません。また、3Dモデルの下図を作成する程度なら線色やレイヤーを使い分ける必要もないので、他の2DCADを使うときの参考にしてください。


TITLE: データにはプロパティ属性)がある
 プロパティ(属性)とは、対象物を識別するための情報です。CADは線のデータを構築するソフトです。画面上の線は、データが画面上に表示されているだけです。

直線のデータを正確に表示するためには、次のような情報が必要です。
  1. まず、線の始点と終点の位置
  2. 線の色
  3. 線の種類
  4. 線の大きさ
  5. レイヤー(画層)
曲線を描くには、もっと多くの情報が必要になります。

 CADで作図するためには、こういう情報をすべて設定しておかないと、思い通りの線は引けません。いろいろな設定をしなくても、いきなり画面上で始点と終点の位置を指定して、線を引けるのは、その他の情報に既定値が設定されているからです。

 CADの線が、数値の情報として記録されていることに、どういうメリットがあるのでしょうか。
  1. 線の情報を直接変更することで、線の色、種類等を作図後に変えることができる。
  2. 移動や変形、部分削除が自由にできるので、図面ができてからレイアウトを変えることができる。
  3. 始点終点がXY座標で指定されているので、数値入力で正確な作図ができる。
  4. 他の線との交点や線の長さを、ソフトが自動的に計算してくれる。
  5. 画面上で拡大表示したり、印刷で拡大縮小ができる。
  6. 図面のデータを再利用することができる。 
 こういうことは、手描きの図面ではできません。線を描き直したり、円や斜め線の交点を求めたりすることが、簡単にできるようになったので、製図は手で描くのとは比べものにならないほど自由になりました。 



TITLE: 線色とは何か
 カラープリンターが普及するまでは、画面上で何色で作図しても、白黒しか印刷できませんでした。そこで、初期のCADを作った人は、作図するときの線の大きさを画面上の色に対応させることを考えました。線の色は線の大きさを表すという考え方は、CADには非常に便利な方法といえます。 

 パソコンの画面は、解像度が低く、線の大きさを実際のサイズで表示することはできないし、線の大きさの区別をつけることもできないので、線の大きさを画面上で確認する別の方法が必要です。
 たとえ大きな画面のモニターであっても、解像度が同じであれば、線はすべて太く表示されるだけで、線の区別ができるようにはなりません。A1サイズの画面があっても、そのままで、手描き図面のように詳細に描き込んでいくことはできないのです。
 線の色と大きさを対応させると、画面上で同じ太さに表示されている線でも、大きさの違う線として、認識することができるようになります。 

 色で線の大きさを表すことが理解できない人は、次のように考えてはどうでしょうか。画面の背景が黒の場合、一番明るい線(たぶん白)が、一番よく使う大きい線とします。線が暗くなるほど、線が細くなるように対応させます。あまり使わない太い線は、別の色にします。
 背景が白の場合は、逆に黒くはっきりと見える線が大きな線となるようにします。
 線色と線の太さの関係には規則はないので、作図した人が設定したルールを理解して画面を見ることが必要です。

 線の大きさを色で表現することは、非常に便利な方法でしたが、カラープリンターの普及もあって、表示された色をそのまま印刷することも必要になってきました。
  そこで、CADでは線の大きさを設定できるようになりました。しかし、色の情報を必要としないような図面では、線の大きさを色で区別しておく方が、線ごとに大きさを設定する必要がないので効率的な作図ができます。

  画面上で色で区別した線の大きさを、プリンターでの印刷に、どのように反映させるのでしょうか。
 印刷の設定はCADによって全く違うので、操作方法をここでは詳細に説明できませんが、JWCADやDRACADでは、メニューの中に、出力時の設定をする場所があり、画面の表示色と、印刷時の色、線幅を対応させることができるようになっています。
 AUTOCADは、少し複雑で、印刷には印刷スタイルというものを使います。印刷スタイルの中で、色別に、出力時の色、線幅等を設定できます。

 今はまだ、印刷の設定はわからないと思いますので、画面上の線色と、印刷時の線幅に対応関係があることだけを理解してください。

 VectorWorksは少し特殊なCADで、表示色と印刷時の線幅の対応機能がありません。つまり、画面上に表示されているように印刷するという考え方です。
 したがって、線の大きさは、作図する人が自分で管理することが必要です。属性パレットの線の種類と太さの欄で、確認と変更はできるので、作図に支障はないのですが、全部の線を黒い線で描いてしまうと、拡大表示でもしない限り、見ただけでは線の大きさが確認できません。
 ですから、VectorWorksでも、線の大きさの設定を変えた時には、線の色も変える方が図面の見通しはよくなります。線の大きさと色を、同時に管理するのが難しければ、最初に色を分けて描いておいて、最後に色別に、まとめて線幅を変更することもできます。印刷の時には、画面の表示を白黒に変更してから印刷します。

  CADを始めたばかりの人は、線の大きさを色で区別する考え方に慣れていないので、色と線幅が整理されていない図面を作る人がいます。
 線幅が設定できないCADを、使い物にならないかのように言う人もいますが、それほど致命的な問題ではありません。その場合は印刷の設定で対応できるはずです。
 その他にも、線の色を変える理由はあります。それは、作図しているものを他のものと区別するためです。この場合は、線の大きさが同じであっても線の色を変え、印刷時の線幅は同じに設定する方が図面としては使いやすくなります。



TITLE: レイヤー(画層)は紙か
 レイヤーは、CADの機能の中でも、最も重要なもののひとつです。レイヤーは日本語では画層と言います。
 レイヤーは透明な紙が重なったものと説明されています。ひとつのデータファイルの中で、たくさんの紙に分けて、図面を描くことができるということです。

 作図をするときには、線色や線種を指定するように、レイヤーも指定してから作図します。線は指定されたレイヤーの上に作図されているわけですから、レイヤーも線のプロパティのひとつです。
 CADのデータを線色や線種で分類できるように、レイヤー別で分類することもできます。つまり、どの紙の上に描かれているかということで分類するわけです。

 CADが使われ始めた頃は、レイヤーが理解されていなかったので、紙が重なったスケッチブックのようなものがイメージされて、それぞれの紙に平面、断面、立面というように全く別の図面を描いているという話をよく聞きました。
 レイヤーが透明で、重ねて上から見ることができるということが、どういう意味か理解されていなかったのです。
  手描きの図面であれば、1枚の紙の上に、すべての線が描いてあるわけですから、CADでも、1枚のレイヤーの上にすべての図面を描けばいいと考えるかもしれません。もちろんCADでもそういう使い方はできます。しかし、手描きの図面と同じことをするのであれば、CADはただの鉛筆の代わりです。もっと効率的な方法を考えたらどうでしょうか。

  レイヤーについては、透明な紙を重ねたイメージだけが説明されて、それ以外の特徴が説明されていないために、混乱している人が多いように思います。レイヤーの特徴とはどんなものか考えてみましょう。
 1.透明な紙で、重ねて見る(画面に表示する)ことができる。(レイヤーの構造)
 重ねて見るということが重要です。手描きでは1枚の図面に描いていたものを、CADでは複数のレイヤーに分けて描きます。図面の要素をいくつかに分類して、別々のレイヤーに作図します。線色線種によって分ける。構造体と仕上、文字、寸法を分ける。分類の仕方はいくらでもあります。うまく分類できていると、作図の効率が上がります。
 どれだけレイヤーが分かれていても、画面上では1枚の図として表示されます。 

 2.どのレイヤーの線も、重ねた紙の上から編集できる。(全画層編集)
 紙のイメージが強いための誤解として、重ねた紙の下の方にあるレイヤーは、編集できるのかという疑問があります。
 紙というのは、レイヤーを理解するためのイメージで、実際に紙が重なっているわけではないのです。レイヤーも、線色や線種と同じように、線を分類するためのひとつの性質です。画面上に表示されている線は、作図する人が編集できないように設定しない限り、すべて選択も編集もできます。
 新しい線を描くときには、そのとき指定されているレイヤー上に作図します。作図した線を複写や移動、変形しても、線色や線種が変わらないように、レイヤーも変わりません。 

 3.編集できるか、できないかは、作図する人が決めることができる。(編集の対象)
 レイヤーの性質として、画面上に見えていても、そのレイヤーの線だけ、選択編集ができないように指定することができます。線色や線種の場合は、分類できても、特定の色だけ編集できないようにするということはできません。 
 レイヤーは、何番のレイヤーだけ編集できないようにするという使い方ができます。一番よく使うのは、現在作図中のレイヤーだけ編集可能にして、それ以外を編集できないようにする使い方です(現在画層編集といいます)。間違って他のレイヤーの線を編集することがないので、作図編集作業を効率的に行えます。 

 4.レイヤーを非表示にできる。(レイヤーの表示非表示) 
 解説書のレイヤーの説明でよくあるのは、ベースになる図面のレイヤーとその上に重ねて表示するレイヤーをいくつか作っておき、表示非表示の組み合わせで、何種類かの図面があるかのように、表示、印刷ができるというものです。
  たとえば、家の間取りを描いた平面図のレイヤーと、家具のレイアウトを描いたレイヤーがあれば、家具のレイヤーの表示非表示を変えるだけで、普通の平面図と、家具の入った図を使い分けることができます。
  その他にも、作図中に、必要のないレイヤーを画面から消しておくこともできます。 

 ソフトの解説書などでは、レイヤーの詳しい説明は、あまり見かけません。説明があっても、主に1の透明であることと、4の表示、非表示ができることが中心です。しかし実際には、CADは線の編集をするソフトですから、2、3の編集に関する部分を理解しないと、レイヤーを使っていることにはなりません。

 ひとつのレイヤーには、線色や線種はひとつであることが理想的ですが、今のCADは、どのレイヤーでも、自由に線色や線種が使えます。そのため、すぐにひとつのレイヤーの上に、複数の線色や、線種を使った図面ができてしまいますが、最低でも、要素別にレイヤーが分かれていると編集作業が容易になります。
 また、CADが普及したことによって、別の図面のデータをコピー編集して使うことを繰り返しているために、線色もレイヤーもバラバラというような図面が多くなって、レイヤーを整理することが不可能になっていることも問題です。

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