入門ガイド2.3 Sketcherで作図して、制約(拘束)で形を決める


■Sketcherワークベンチの作図機能
 SketcherはDraftと同じように2Dの図形を作図することができますが、2D製図用のツールではありません。

 2D作図機能を練習することが目的なら、Draftワークベンチを使うことをお勧めします。Draftは一般的な2DCADであり、基本的な作図編集機能を使って寸法を決めながら作図することができます。

 ソリッドを作成するには、Partワークベンチなら、DraftでもSketcherでもベースオブジェクトとして使うことができます。しかし、PartDesignワークベンチを使うためには、Sketcherでベースオブジェクトを作成することが必要なので、その点だけが問題です。


 Sketcherは制約(拘束)という機能を使って図形の形を固定し、スケッチ(Sketch)というオブジェクトを作成します。スケッチの中の線はバラバラでも構わないですが、ひとかたまりの図形(グループのようなもの)なので、スケッチを構成する線を編集したり、追加、削除できるのはSketcherだけです。
区別したい図形は別のスケッチとして作成します。


Sketcherワークベンチの機能は、制約とか拘束と呼ばれます。「制約」とは「寸法の代わりに、拘束を使用してオブジェクトの自由度を制限すること」なので、実際の機能としては同じです。

従来の作図法では、図形は最初から正確な位置に正確な寸法で作図することが必要でしたが、拘束を使うと作図後に図形を変形できるので、最初から正確に作図する必要はありません。
オブジェクトは緩く描画でき、制約がない限り変更できるので、設計プロセスに大きな柔軟性がもたらされます。

FreeCADはパラメトリックモデラーなので、Draftワークベンチで作図した長方形はパラメーターを変更することで、形を変えることはできますが長方形以外のものになることはありません。そこがSketcherとは大きく違う点です。


例えば、Sketcherで作図する四角形は、まったく制約がない状態では、4本の線から始まります。
この線にはどの位置にでも移動できる自由度があります。拘束では条件を与えることで自由度を制限し、最終的に自由度0になり完全に拘束することで図形を固定します。

1. 線の4隅がつながること(一致拘束)で、四角形になります。
2. 対面する2辺が平行(平行拘束)であれば、平行四辺形になります。
3. コーナーの角度を直角(垂直拘束 角度)にすれば、長方形になります。
4. 辺の長さ(距離拘束)を決めると、長方形の大きさが決まります。
5. 辺の方向を水平、垂直(水平拘束)にすれば、図形の方向が固定します。

これでも自由度は0になっていません。長方形のどこかのポイントと座標基準点の位置関係を決める(ロック拘束)と、図上で図形の位置が固定されるので、図形の色が緑色に変わり完全に拘束されます。

ロック拘束を消して、対角線の頂点と基準点を選択し、対称拘束で固定することもできます。


拘束で固定した図形は、拘束条件を変更することで、図形の形を自由に変形できます。
パラメトリックで操作の履歴をたどっても、できる変形には限度がありますが、Sketcherで作成した図形は、拘束条件を変えてしまえば、はるかに大きな変更が可能になります。



■Sketcherの作図ツールと線の編集ツール

Sketcherでは、スナップは使えません。(グリッドにスナップすることはできます。)
点の位置を合わせるには、一致拘束を使います。線上につながっているためには線上点拘束です。

端点や線上に合わせると、スナップと同じように位置合わせできることがありますが、それはスナップではなく、自動的に一致拘束や線上点拘束が設定されたからです。
水平、垂直に線を引いた場合にも、水平、垂直拘束が自動的に設定されます。

一般的な作図ツールはDraftワークベンチとほぼ同じ操作です。
見慣れないアイコンはスケッチャーCompCreateConic.png 円錐曲線を作成があります。円錐を切断した時にできるいろいろな曲線を作成します。

線を加工するのは、スケッチャーCreateFillet.svgフィレット、スケッチャートリミング.svgトリミング、スケッチャーExtend.svg延長、スケッチャーSplit.svg分割があります。

右端の3つは作図補助です。
スケッチャーExternal.svg 外部ジオメトリツールは、作業ウインドウにあるオブジェクトの点、または線をSketcher作図の参照としてリンクします。指定するとその点や線が赤色で表示されます。

スケッチャーCarbonCopy.svg カーボンコピーツールは、スケッチを他のスケッチに合成します。
別々に作成したスケッチをひとつのスケッチにまとめることができます。

スケッチャーToggleConstruction.svg 構築モードは、ONにすると、作図ツールを使って2DCADの補助線を作図できます。
作成した補助線は青色表示になります。

■拘束ツール

FreeCADのSketcherの最も重要な拘束機能です。拘束を使って図形に制限を付けて寸法を変更しても形状が崩れないように制御しています。

例えば、長方形の下辺の長さを伸ばした場合、拘束がないと長方形が横長になるのか、台形になるのか、辺が長方形の外に伸びてしまうのかを決めることができません。
ここで拘束を使って4辺の関係を決定しておけば、寸法変更に伴って適切な変形をさせることができます。

拘束機能は上の図で、左端から一致、線上点、垂直方向、水平方向、平行、垂直交差、接線、等値、対称、ブロック(線が移動することを禁止)となります。

寸法や角度についても拘束することができます。
スケッチャーConstrainLock.svg 鍵マークから順に、ロック(基準点(0,0)との位置関係を固定)、水平距離、垂直距離、距離(実長方向)、半径(直径も可能)、角度があります。

距離拘束は、図形の寸法を測るツールではありません。
2DCADの寸法線は、図形の寸法を計測して寸法線を作成します。寸法拘束でも、オブジェクトを選択してツールをクリックすると図の寸法が表示されるので、寸法線作図ツールのように見えます。
距離拘束は、ここに数値を入力することで指定箇所の距離を固定する機能です。数値を変更すれば図形の位置や形が変わります。

最後のスケッチャーToggleActiveConstraint.svg は、拘束の一時解除です。ONにすると、配置している拘束を一時的に無効にします。


■拘束を整理する



スケッチャーSelectElementsWithDoFs.svgからスケッチャーSelectConflictingConstraints.svgまでは、拘束を検証し整理するためツールです。慣れるまではあまり使うことはありません。


■拘束図形を複写する
拘束された図形を、移動複写するツールもあります。
スケッチャーSymmetry.svg ミラー   スケッチャークローン.svg クローン   スケッチャーCopy.svg コピー
スケッチャーMove.svg 移動は、最後に選択した点を基準として、選択したスケッチャー要素を移動します。
スケッチャーRectangularArray.svg 長方形配列は、選択したスケッチャー要素の配列を作成します。

スケッチャーDeleteAllConstraints.svg すべての制約を削除:スケッチからすべての制約を削除します。

それぞれの拘束を削除する簡単な方法は、図上の拘束のマークを選択し削除することです。

■操作例(H型鋼断面)
 簡単な作図例としてH型鋼の断面H600x300x12x25を作図してみます。
作業平面は、上面(XY)とします。

1. 連続線で概略の形状を作図します。

水平垂直に近い線を引くと、自動的に水平、垂直拘束が設定されます。
うまく拘束されなかった場合は、線を選択し拘束ツールをクリックすれば修正できます。
始点と終点がつながるように、始点の位置にもどってポイントが白く表示されたら、クリックすれば一致拘束になります。

2. 板厚の同じ個所を選択し、等値拘束をクリックします。
3. 同じ長さの箇所を選択し、等値拘束をクリックします。

これでH型鋼の形ができるので、次にサイズを指定します。
4. ウェブ厚さを指定できる2点を選択し、水平距離拘束をクリックします。
  寸法12を入力します。
5. フランジ厚さに該当する線を選択し、垂直距離拘束をクリックします。
  寸法25を入力します。
(フランジ厚さは4か所を等値拘束しているので、どの辺を選んでも同じ結果になります。)
6. 高さを設定するために、上端と下端のポイントを選択し、垂直距離拘束をクリックします。
  寸法600を入力します。
7. フランジ上端の辺を選択し、水平距離拘束をクリックします。
  寸法300を入力します。

形状はこれでOKなので、このままでも使えますが、基準点と位置合わせしておきます。
8.図形外形の対角線となる2点と、基準点を選択し、対称拘束をクリックします。
図形が基準点が中心に来るように移動し、線が緑色に変わって固定できたことがわかります。

Sketcherの閉じるをクリックして、BIMワークベンチに戻ると、モデルタブにSketchというオブジェクトができています。




 Sketcherは特殊な作図方法ですが、拘束を使って形を整えていく考え方を理解すれば、それほど難しいツールではないはずです。

 作図だけでいえば、スナップできる参照点があればDraftワークベンチで作図するのが速いですが、まったく何もない状態から作図するのであれば、Sketcherでラフな形状を作成し、拘束で調整するのも効果的な方法です。何より、最初から寸法を細かく作図しなくてよいのは、Sketcherの大きなメリットです。

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