09.7建築 3DBIMモデルから2D図面を作成する

 これまでの3DCADでは図面を下書きにしてモデルを作成していたが、モデルと図面はリンクしていないので、変更が自動的に反映されることはなかった。

 BIMはモデルと図面がリンクしていることで、モデルを変更するとリンクしたすべての図面に変更が自動的に反映される。これまでは、図面の一部を変更するとその図面の関連部分を修正し、さらに関係するすべての図面を修正していたが、その手間を大幅に軽減することができる。

 FreeCADのBIMワークベンチでも、モデルと図面をリンクすることで、モデルの変更を図面に反映できる機能が備わっている。モデルから図面を作成する操作はBIMソフトによって違っているが、モデルと図面を一体的に作成する考え方は共通である。


■用語の注意点
 FreeCADでは図形をレイアウトする用紙のことをページ(オブジェクト)と呼び、モデルを変換して作成したページ上の図形のまとまり(例えば平面図)をビュー(オブジェクト)と呼ぶ。
ページ上のビューは、作業ウインドウの上面ビュー、前面ビューといった視線方向を表すビューとは別物であるが、同じビューという単語を使っているのでまぎらわしい。
作業ウインドウの上面ビューをページに挿入して、平面図ビューにするというような表現になる。


■設計図への寸法の記入方法
FreeCADには、作業平面に記入するためのBIMワークベンチ(Draftワークベンチ)の寸法ツールと、図面ページに直接記入するためのTechDrawワークベンチの寸法ツールがある。Sketcherにも寸法を記入するツールはあるが、拘束ツールなので寸法作成ツールではない。

図面に寸法を記入する方法は、チュートリアルやビデオを見ると次のような方法が紹介されている。

1. 作業ウインドウの上面ビュー、前面ビューなどをページに挿入する。
  TechDrawワークベンチの寸法ツールですべての寸法を記入する。
(FreeCADで図面に寸法を入れる方法として、図面作成と併せて一番よく説明されている。)

機械部品など三面図を図面化する場合には有効であるが、建築のように同じ寸法の繰り返しが多く、断面オブジェクトを多用する図面では同じ操作を繰り返さなければいけない。
さらに、現在のバージョンでは、断面オブジェクトを挿入したビューは図面にスナップできないので、正確な寸法を計測できないという問題もあり、今のところ建築図には使えない。

ページ上のオブジェクトはマウスでドラッグできるので、レイアウトの変更が簡単である。断面オブジェクトを挿入したビューが計測可能になれば、この方法が最も簡単な方法になるかもしれない。

2. 図面は作業ウインドウのビューや断面オブジェクトを挿入してビューを作成する。
  寸法は作業平面に作図する。
  TechDrawワークベンチのTechDraw DraftView.svg ドラフトオブジェクト挿入ツールで寸法のビューを
  作り合成する。

操作方法が間違っているかもしれないが、ドラフトオブジェクト挿入ツールを使うと、寸法が個別のオブジェクトに分解して、位置関係が崩れてしまう。仮に寸法オブジェクトとしてまとめることができたとしても、図形と寸法を合成するのは手間がかかるので、これも採用できない。

以上がチュートリアルで紹介されている方法である。

3. ネットの動画にある方法
  断面オブジェクトをShape2DViewオブジェクトに変換する。
  XY平面に、平面図、断面図のように分けて別の場所に配置し、寸法を記入する。

不要な部分を非表示にしてページに挿入すればビューはできるが、階数が増えたり、図面枚数が多いと、それだけの数の図形を準備する必要があるので、現実的ではない。
図面枚数が少なければ、この方法でいけるかもしれない。

4. 断面オブジェクトに寸法も含める方法
  作業ウインドウの上面前面側面ビューを使って、軸線をガイドにして寸法を記入する。
  (ここは2と同じ)
  断面オブジェクトを作りたい要素と通り芯、寸法のオブジェクトをまとめて選択する。
  Arch SectionPlane.svg断面オブジェクト作成ツールをクリックして、各断面オブジェクトを作成する。
  TechDraw ArchView.svgビューツールで断面オブジェクトをビューに変換して挿入する。

この方法の問題点は、ページ上で寸法の追加削除ができないことと、細かい部分への記入が難しいことだろうか。断面オブジェクトのビューはモデルとリンクしているので、モデルの方から変更することは可能である。
ただし、データ量が増えると動作が遅くなる。以下はこの方法を中心にして説明する。


■通り芯の挿入
通り芯の挿入についても、作業ビューから直接挿入する方法も考えていたが、上の4番の方法を使うなら、図面のビューに通り芯も合成されているので、特に操作は必要ない。
注意点は、ビューに挿入するために通り芯を選択する場合は、軸ではなく、縦軸横軸を選択しないとビューに挿入できない。

作業ビューから断面オブジェクトを使わないで、図面と通り芯を一緒に直接挿入すると、参照点の黒丸が表示されるので、TechDrawワークベンチの寸法ツールでページ上で寸法を入れることができるが、なぜか通り符号が表示されなくなる。


■ページにビューを挿入
ページにビューを挿入するツールについては「09.4建築のための TechDrawワークベンチ」で説明している。

TechDraw View.svg ビューの挿入:オブジェクトを2D平面に投影してビューを挿入する。
TechDraw ProjectionGroup.svg 投影グループの挿入:ダイアログを呼び出して、複数の方向からビューを作成する。
TechDraw SectionView.svg インサートセクションビュー:既存のビューの断面図を挿入する。
TechDraw DetailView.svg 詳細ビューの挿入:既存のビューの一部を詳細ビューとして挿入する。
TechDraw DraftView.svg Draft Workbenchオブジェクトの挿入:選択したDraftオブジェクトを挿入する。
TechDraw ArchView.svg Arch Workbenchオブジェクトの挿入:BIMで作った断面オブジェクトを挿入する。


■建具表示の編集

前置きが長くなったが、ここから図面作成の手順を説明する。

1階の平面図に内部の扉を追加して、平面図のビューを作成してみた。
建具は、モデルでは外開き、内開きの違いが判らないが、平面図で扉の軌跡が表示されれると都合の悪い箇所が見えてくる。
また、開き戸の吊り元も調整する必要がある。

3Dビューとページの画面を開いた後で、ウインドウメニューの「並べて表示」をクリックすると画面を分割できる。3Dビューはワイヤーフレーム表示にした方が建具がわかりやすい。


外壁の扉は外側から配置したが、ほぼすべてが内開きになっている。次からは開き扉は開き方向の反対側から配置した方がよさそうである。
(外壁の外側から配置すると、ドアは外開き、窓は内開きで作成される。今回の外部開き戸はOpen 2-Paneで作成したので、内開きになっている。)

片開き戸も内外逆のものや、吊り元を変えたい部分もある。

建具オブジェクトをダブルクリックして、コンポーネント内訳を出すと、下段に開き方向とヒンジ位置を反転するオプションがあるので、これをクリックして、平面図で開き方向を調整する。1回でうまく反転しなくても組み合わせながら数回クリックすると調整できる。
(この操作で変更すると、ページ上の図面に自動的に反映する。)

全ての変更したい箇所をひとつずつ編集して、全体を完成する。


作業ビューでは、扉の軌跡は表示していないが、断面オブジェクトを作成すると設定に関係なく、自動的に軌跡が表示される。


作業ビューでも、モデルの扉の開き方と、軌跡の表示をコントロールできる。
建具オブジェクトのプロパティで、Openongに開き方の %を記入すると扉が開いた状態でモデルができる。
Symbol Planをtrueにすると、扉の軌跡が平面に表示される。(%は反映しない。)



■モデルの整理
 形状を見るだけであれば、構造部材の接続部は重なっていてもデータの見た目が汚いだけで特に支障はないが、図面化するには接合部を結合する必要がある。

 部材の結合ツールは、ブーリアン演算のユニオンパーツFuse.svgとカットパーツカット.svgと、建築オブジェクトの加算減算Arch Add.svg Arch Remove.svg がある。
 どちらも二つのオブジェクトを結合するツールであるが、ブーリアン演算はSolid用のツールであり、3Dプリンター用のデータを作る場合などには問題ないが、建築オブジェクトの属性が消えてしまうので、BIM操作には適当でない。
加算減算ツールは、建築オブジェクトがそのまま残るので、これであれば結合してもよい。

たまに、加算減算ツールで結合できないオブジェクトがある。その場合はブーリアン演算で結合した上で、柱ツールか壁ツールで建築オブジェクトに変換すれば建築のプロパティを使うことができる。

ブーリアン演算はFusionまたはCutオブジェクトができるが、加算減算では片方のオブジェクトの下層に他のオブジェクトが入る形となるので、親となるオブジェクトを決めておいた方がよい。

一番わかりやすい方法は、どれか構造オブジェクトを選択し、壁ツールで壁に変換し、名前を構造にでも変えて、これを親として他のオブジェクトを合成すればすべてのオブジェクトが同列に並ぶので見た目がきれいである。

1Fで合成を試してみる。
合成したいオブジェクトは、柱と壁、上階(2F)の床梁とスラブになる。

1. まず、1Fの柱1fC1を選択し、壁ツールをクリック、できた壁オブジェクトの名前を構造1Fとする。下層に1fC1が入っている。

構造1Fオブジェクトは1Fレベルの下層に移動しておく。

2. 構造1Fに他の構造体(1F壁、2F梁、2Fスラブ)をひとつずつ合成する。
〇〇を〇〇(構造1F)に加算すると憶えておけば、合成するオブジェクトと合成先のどちらを先に選択するか迷うことがない。
(ブーリアン演算は〇〇から○○をカットするで、選択順序が逆である。)

他の階も同様にして合成する。

合成できると、モデルでは重複部分のラインが消えて、図面では接合部の処理ができる。

2D図面を残したまま操作すると動作が重くなるので、実際には断面オブジェクトやページはすべて削除して編集し、完成してからページを作り直した方がよい。


3. 作業平面で各図面の寸法を記入する。
作業平面を上面、上面ビューにする。WPスナップをONにして、記入する寸法がXY平面からずれることがないように拘束する。

通り芯に寸法を記入する。
寸法ができたら、グループを作成し名前(dim plan)を付ける。
寸法をその中に移動する。後で寸法を追加したり、変更する時は作成した寸法をこのグループに移動すれば図面に反映される。



断面用の寸法も同様に作成する。
作業平面を前面または側面に変更し、正面ビュー、側面ビューにして寸法を記入する。
WPスナップをONにして、YZ平面、XZ平面に拘束することは平面と同じ。

寸法引き出し線を使いたい場合は、斜め寸法ツールを使って、Shiftキーを押して水平垂直に拘束して使えば、引き出し線の長さを設定できる。

寸法ができたらグループ(dim sec1、dem sec2)を作成し、寸法を移動する。



最後に平面、断面を作成したいオブジェクトを選択して、断面オブジェクト作成ツールをクリックすれば断面オブジェクトができる。
今までの操作のままでは、建具が表示されないことがあるので、その場合は壁オブジェクトの中にある建具オブジェクトを選択して表示に変更する。


ページ作成ツールで図面用のページを作成し、断面オブジェクトから平面図ビュー、断面図ビューを作成する手順は前回説明の通り。TechDrawワークベンチでTechDraw ToggleFrame.svgビューの点線枠を非表示にすると下のような図面ができる。

 この図は、これまでの操作を見ていればわかるように2次元の図面として作成したものではない。3Dモデルから自動で作成し、モデルとリンクしているのでモデルを変更すれば、変更は図面に反映するようになっている。

作業平面に家具や設備機器の2D図面を配置すれば、平面図に作図することも可能である。 さらに、表示する部材を選べば、構造の伏図や軸組図を作成することもできるので、一度モデルを作ってしまえば、いろいろな使い方ができることがBIMモデルの優れているところである。


コメント

このブログの人気の投稿

はじめに FreeCADでBIMはできるのか(2022/8/8追記)

オブジェクトを着色する(3) パースのレンダリングに挑戦